社労士事務所の入退社手続きをMake.comで自動化 — 顧問先50社の期限アラートと進捗管理で月10時間削減
社労士事務所の入退社手続きは「顧問先から連絡が来る → 必要書類を集める → 期限を数える → 申請する」という同じ作業を、顧問先の数だけ並行して回す仕事です。本レシピは Make.com を中心に、顧問先からの入退社連絡受付から書類回収・進捗管理・法定期限アラートまでを自動化する設計を、期限の一次情報と月額コストまで含めて示します。
- 初期投資 ¥0、月額 ¥2,200-4,000 程度 (Make.com Core/Pro + Google Workspace + Airtable + Slack) で開始可能
- Make.com のシナリオ 4 本で「入退社連絡受付・チェックリスト生成・書類督促・期限アラート」までカバー
- 健康保険・厚生年金保険の資格取得届/資格喪失届は事実発生から5日以内 (日本年金機構)
- 雇用保険の資格取得届は翌月10日まで、資格喪失届・離職証明書は翌日から10日以内 (ハローワーク)
- 編集部の試算では、顧問先50社・月10件の入退社対応で月10時間程度の事務削減
- 個別の期限判断・手続き要否は必ず管轄の年金事務所・ハローワークに確認する (本記事は構成例)
編集部の見解: 入退社手続きの自動化というと Zapier で採用〜入社を自動化する記事 を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、あちらは事業会社の人事担当者が自社の採用から入社までを自動化する内容です。本レシピは社労士事務所が複数の顧問先から届く入退社連絡を代行処理するための構成で、読者も対象業務もまったく異なります。顧問先ごとに連絡手段(電話・メール・LINE・チャット)も書式もバラバラな中で、「誰の・何の手続きが・いつまでか」を事務所側で一元管理し、法定期限に間に合わせることが最大の論点です。
社労士事務所特有の課題 — 顧問先の数だけ発生する「同じだが違う」作業
社労士事務所(顧問先20-100社規模)が抱える入退社対応の実務負荷は、事業会社の人事部とは性質が異なります。
- 連絡経路がバラバラ: 顧問先ごとに電話・メール・FAX・LINE で入退社の一報が届き、内容の粒度も揃わない
- 必要書類が案件ごとに変わる: 雇用形態 (正社員/パート/役員)、扶養家族の有無、マイナンバー未提出などで回収書類の組み合わせが変化する
- 法定期限が複数走る: 同じ「入社」でも健康保険・厚生年金 (5日以内) と雇用保険 (翌月10日) で起算日と期限が異なり、混同すると遅延リスクがある
- 進捗が担当者の頭の中にしかない: 「あの会社の離職票、もう出したっけ」を所長が口頭で確認する運用が残っている事務所は珍しくない
- 顧問先への進捗報告: 「今どこまで進んでいるか」を顧問先から聞かれた際、都度書類を掘り返して回答している
これらは顧問先1件あたりの作業は定型でありながら、件数が積み重なると管理が破綻する典型的な自動化向き業務です。Make.com を使えば、入退社の一報を受けてから期限アラートまでを事務所側で一元的に組み立てられます。
手続き別の法定期限 (一次情報で確認済み)
期限を誤ると顧問先や従業員が実害を被るため、以下は日本年金機構・ハローワーク (厚生労働省管轄) の公式情報で確認した期限のみを掲載しています。
| 手続き | 起算日 | 提出期限 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 | 雇用した日 (事実発生日) | 5日以内 | 年金事務所 (協会けんぽ) / 健康保険組合 + 年金事務所 |
| 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 | 退職日等の事実発生日 | 5日以内 | 年金事務所 (協会けんぽ) / 健康保険組合 + 年金事務所 |
| 雇用保険 被保険者資格取得届 | 雇用した日の属する月 | 翌月10日まで | 管轄ハローワーク |
| 雇用保険 被保険者資格喪失届・離職証明書 | 離職日の翌日 | 10日以内 | 管轄ハローワーク |
失敗パターン 1: 「5日以内」と「10日以内」の起算日を混同する
健康保険・厚生年金は「事実発生日 (入社日・退職日) から5日以内」、雇用保険の資格喪失届・離職証明書は「離職日の”翌日”から10日以内」と、起算日の数え方が制度によって異なります。Make.com のシナリオで期限日を自動計算する際は、この起算日の違いをそのまま反映しないと期限アラートがずれます。設定時にテスト日付で必ず検算してください。
失敗パターン 2: 「入社月の翌月10日」を勘違いする
雇用保険の資格取得届だけは他の3手続きと期限の形が違い、「入社日から○日以内」ではなく「入社した月の翌月10日まで」です。月末入社と月初入社では実質的な猶予日数が大きく変わります (例: 4月30日入社なら実質10日程度、4月1日入社なら実質40日程度)。チェックリストのテンプレートに期限の計算式を組み込む際、この非対称性を必ず反映してください。
完成形 (フロー図)
連絡受付から期限アラート・進捗共有まで Make.com が担当
次のセクションでは、この構成を組むための必要ツールと月額コストを具体的に示します。
必要なツールと月額コスト (2026-07 時点)
| ツール | プラン | 月額 (税込目安) | 役割 |
|---|---|---|---|
| Make.com | Core (年間払い) | $9 (約¥1,400) | シナリオ実行基盤、月10,000オペレーション |
| Airtable | Free 〜 Team | ¥0 (Free) 〜 ¥3,000/ユーザー (Team、年払い時) | 案件台帳・チェックリスト管理 |
| Google Workspace | Business Starter | ¥800 (税別、通常価格) | Forms / Gmail / カレンダー |
| Slack | フリー or Pro | ¥0-925 / ユーザー | 所内の期限アラート通知 |
合計 (顧問先50社規模、Make.com Core + Airtable Free + Workspace + Slack フリー): 月 ¥2,200 程度。案件量が多い事務所は Make.com を Pro ($16、約¥2,500) に上げても月 ¥4,000 以下に収まります。料金は月払いの場合やや割高になるため、契約前に必ず公式サイトで最新プランを確認してください。
編集部の選択指針
「顧問先20社以下、月5件以下の入退社対応」なら Make.com Free (月1,000オペレーション) + Google Forms + Sheets で足りるケースが多いです。「顧問先50社以上、複数担当者で分担」なら Airtable を台帳に据えて Make.com Core/Pro を組み合わせ、担当者ごとの進捗ビューを分ける構成が運用しやすくなります。
設定手順 (150分)
Google Forms で「顧問先名」「対象従業員氏名」「入社/退職の別」「雇用形態 (正社員/パート/役員)」「対象日」「連絡担当者」を含むフォームを作成します。回答先 Google Sheets に「受付日時」「案件ステータス (受付/書類回収中/申請済/完了)」「健保・厚年 期限日」「雇保 期限日」の列を用意します。顧問先には事務所からこのフォームのリンクを配布し、電話連絡があった場合も事務所側の担当者が代行入力する運用にします。
Trigger: Google Forms「新しい回答」(Watch Responses)。Action 1: Airtable「Create Record」で案件テーブルに行を追加。Action 2: Make.com の日付関数 (addDays) で「対象日 + 5日」(健保・厚年) と「対象日を含む月の翌月10日」(雇保取得) または「対象日の翌日 + 10日」(雇保喪失) をそれぞれ計算し、Airtable のレコードに書き込みます。Action 3: Slack「Send Message」で担当者チャンネルに新規案件を通知 (顧問先名・対象従業員・期限日を含める)。
Trigger: Airtable「Watch Records」でステータスが「受付」の新規レコード。Router で雇用形態 (正社員/パート/役員) と入社/退職の別を分岐。Action: 各分岐ごとに必要書類リスト (例: 入社時は雇用契約書・年金手帳またはマイナンバー・扶養控除等申告書、退職時は離職理由確認書・貸与品回収チェック) をテンプレート化した Airtable のチェックボックス列を一括更新。分岐が多くなるため、フィルターとルーターの組み合わせを事前にフローチャートで整理してから設定すると迷いません。
Trigger: Make.com の Schedule (毎週月曜9:00)。Action 1: Airtable「Search Records」で「書類回収中」かつ「期限まで残り5日以内」の案件を抽出。Action 2: Gmail「Send an Email」で顧問先の連絡担当者へ督促メール送付 (未提出書類名を差込)。Action 3: Slack で所内に未回収リストを通知。督促文面は「相手を責めない」トーンで統一し、期限が3日を切った案件は電話フォローに切り替える運用ルールを事務所内で決めておきます。
Trigger: Schedule (毎日9:00)。Action 1: Airtable「Search Records」で「健保・厚年 期限日」または「雇保 期限日」が本日から3日以内かつ未申請のレコードを抽出。Action 2: Slack で担当者に個別メンション付きで通知 (「⚠️ ○○社 △△さんの資格取得届、期限まであと2日」のように具体的に)。Action 3: 期限当日になっても未完了の案件は所長宛にもエスカレーション通知を追加送信。この期限アラートが本レシピの中核です。
Airtable の共有ビュー機能で、顧問先ごとにフィルタした閲覧専用リンクを発行します (顧問先名で絞り込み、内部メモ列は非表示に設定)。顧問先から「進捗どうなってる」と問い合わせが来た際、このリンクを案内するだけで済むようにします。個人情報を含むため、共有リンクの発行範囲と閲覧権限は事務所の情報管理規程に沿って設定してください。
設定が完了すると、事務所側の日次作業は「Slack の期限アラートを確認し、申請作業に着手する」だけになります。次のセクションでは、この構成による工数削減を編集部の試算で示します。
編集部のシミュレーション (期待効果の試算)
以下は 編集部による試算 です。実際の効果は顧問先数・案件のばらつき・既存の運用体制により変動します。
前提: 顧問先50社、月10件の入退社対応 (入社6件・退職4件)、担当者2名、現状は電話・メール受付 + Excel台帳 + 手動期限管理。
- 連絡受付・台帳転記: 月 3 時間
- チェックリスト作成: 月 3 時間
- 書類督促・回収確認: 月 4 時間
- 期限管理・カレンダー確認: 月 4 時間
- 顧問先への進捗報告: 月 2 時間
- 合計: 月 16 時間
- 連絡受付: 月 0.5 時間 (自動転記)
- チェックリスト作成: 月 0 時間 (自動生成)
- 書類督促: 月 1 時間 (自動リマインド確認のみ)
- 期限管理: 月 1 時間 (アラート確認のみ)
- 進捗報告: 月 0.5 時間 (共有ビュー案内のみ)
- 合計: 月 3 時間
月 13 時間削減 ≒ 週 3 時間強。社労士補助スタッフ (時給 ¥1,800 換算) で月 ¥23,400、年間 ¥28 万円相当の機会費用削減。
工数削減と並んで重要なのは期限遅延のリスク低減です。健康保険・厚生年金は5日、雇用保険の資格喪失関連は10日という短い期限の中で、担当者の記憶やExcelの目視確認に頼る運用は、顧問先数が増えるほど遅延リスクが高まります。Make.com による自動アラートは、この属人的なリスクを構造的に下げる狙いがあります。
電子申請 (e-Gov・マイナポータル連携) の扱いについて
本レシピの範囲: 申請書類の作成・提出そのものは対象外
資格取得届・資格喪失届の実際の提出は、e-Gov 電子申請または紙・窓口持参で行います。Make.com には e-Gov や日本年金機構・ハローワークの申請システムと直接連携する公式アプリは本記事執筆時点で確認できませんでした。本レシピが自動化するのは「連絡受付・書類回収・期限管理・進捗共有」という申請の”前工程”であり、実際の電子申請操作は e-Gov の画面またはSmartHR等の労務クラウドサービス (SaaS) の申請代行機能を使う想定です。e-Gov の最新の仕様・利用可能な手続きは e-Gov公式サイト で確認してください。
編集部の警告
失敗パターン 3: 「顧問先の従業員の個人情報をチャットで平文共有」
入退社手続きでは氏名・住所・マイナンバー・扶養家族情報など個人情報保護法上の個人データ、および特定個人情報 (マイナンバー) を扱います。Slack や Gmail に本文として個人情報を書き込む設計は避け、Airtable 側の詳細レコードへのリンクのみを通知する運用にしてください。マイナンバーは汎用クラウドストレージでの平文保管を避け、労務クラウドサービスの専用機能を使うことを推奨します。詳細は 個人情報保護委員会 のガイドラインを参照してください。
失敗パターン 4: 「顧問先ごとの契約範囲を超えた自動処理」
社労士事務所と顧問先の顧問契約には、手続き代行の範囲 (2号業務・3号業務の範囲) が定められています。Make.com のシナリオが自動で顧問先に督促メールを送る設計にする場合、契約上その連絡業務が事務所の代行範囲に含まれているかを事前に確認してください。契約外の顧問先に同じシナリオを流用すると、想定外の連絡が届いてしまう事故につながります。
よくある質問
Q. SmartHR など労務クラウドサービスを既に使っている事務所でも Make.com は必要?
編集部の答え: 労務クラウドサービスは入社後の手続き書類作成・電子申請に強みがありますが、「顧問先ごとにバラバラな連絡経路を一元化する」「複数顧問先の期限を横断してアラートする」部分は標準機能でカバーしきれないことがあります。Make.com は労務クラウドサービスの前工程・横断管理を埋める接着剤という位置づけで検討してください。
Q. 顧問先数が少ない (10社以下) 事務所でも投資対効果は出る?
編集部の答え: 顧問先10社以下・月数件の対応であれば、Make.com の無料プラン (月1,000オペレーション) + Google Forms + Sheets の内製構成でも十分に回る可能性があります。まずは無料プランでシナリオA (連絡受付+期限計算) の1本から試すことを推奨します。
Q. 期限アラートを自動化すれば申請作業自体もすべて自動化できる?
編集部の答え: 本レシピは「連絡受付・書類回収・期限管理・進捗共有」までを自動化する設計で、実際の資格取得届・資格喪失届の作成・提出 (e-Gov電子申請や窓口提出) は対象外です。申請書類の作成・提出は労務クラウドサービスの申請機能または手作業で行い、Make.com はその前工程を支える構成として位置づけてください。
Q. 法定期限の解釈に迷った場合はどうすればいい?
編集部の答え: 本記事に記載した期限は日本年金機構・ハローワーク (厚生労働省管轄) の公式情報に基づいていますが、個別の事案 (60歳以上の再雇用、外国人従業員、複数事業所勤務など) では判断が分かれるケースがあります。個別の手続き判断は必ず管轄の年金事務所・ハローワークに確認してください。
拡張アイデア
- 顧問先向けポータル化: Airtable の共有ビューを Softr 等でノーコードポータル化し、顧問先が自分で入退社連絡を入力できるようにする
- 給与計算ソフト連携: 入社確定時に給与計算ソフト (freee人事労務・マネーフォワードクラウド給与等) への従業員登録アクションを追加
- 雇用保険料率・社会保険料率の年次改定通知: 毎年の料率改定時期にAirtableの計算式更新リマインドをシナリオに追加
- 退職者アンケート: 退職確定時に Google Forms で退職理由アンケートを自動送信し、顧問先へのフィードバックに活用
関連レシピ
- Zapierで週4時間削減 採用→入社手続き自動化 中小企業人事向け
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- 司法書士の登記期限・依頼者連絡をZapierで自動化
- Make.comでAirtable→請求書PDFを自動生成し月3時間削減するレシピ
まとめ
社労士事務所の入退社手続きは、月 ¥2,200-4,000 の投資で月13時間程度の事務削減が現実的な試算です。導入工数150分、運用負荷はSlackアラートの確認程度まで圧縮できます。健康保険・厚生年金 (5日以内) と雇用保険 (翌月10日・10日以内) という異なる起算日・期限を自動計算でカバーすることが、本レシピ最大の価値です。
まずはシナリオA (連絡受付+期限自動計算) の1本から導入し、事務所の運用に慣れてから督促・アラートのシナリオを追加していく段階導入を推奨します。
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出典・参考情報
- 日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」 — https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150422.html
- 日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」 — https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20150407-02.html
- 厚生労働省 大阪労働局ハローワーク「従業員の雇用保険の主な手続き」 — https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-hellowork/list/umeda/_75398/tokuso.html
- 厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」 — https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001573350.pdf
- 個人情報保護委員会 — https://www.ppc.go.jp/personalinfo/
- e-Gov (電子政府の総合窓口) — https://www.e-gov.go.jp/
- Make.com Pricing — https://www.make.com/en/pricing
- Airtable Pricing — https://www.airtable.com/pricing
- Make.com × Google Sheets Integrations — https://www.make.com/en/integrations/google-sheets/slack
本記事の数値・事例のうち、「編集部のシミュレーション」「編集部の試算」と明示された箇所は編集部による試算・推論です。実際の効果は事務所規模・顧問先数・既存の運用体制により変動します。法定期限は日本年金機構・ハローワーク公式情報に基づき記載していますが、個別の手続き判断・解釈は必ず管轄の年金事務所・ハローワークに確認してください。本記事は業務効率化の構成例であり、法的助言ではありません。
編集長 Mira / AI経営ラボ 本記事は 2026-07-17 時点の情報です。料金・機能・法定期限は各公式情報を最新でご確認ください。
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